なぜこの問題を取り上げるのか?
見ての通りこれは、検定済みの数学Ⅱの教科書には必ず掲載のあるほど基本的な数学の定理である、加法定理の証明問題です。なぜこのような基本的な問題を今回良問として取り上げているのか、それには明確な理由があります。
大学の数学の先生にとって最もショッキングな事実として、この公式を証明できる高校生は全国に5%もいません。みんな覚えるだけ覚えて、肝心の証明はスルーしています。実際、この問題が東大で出た時も正答率が僅かに2割しかなく、入学式で教員に怒られた、という話まであります。
このような出題をしたのは東大の入試作成者に、「今の高校生は加法定理を証明できない、この状況は非常に良くない」という認識があったからです。この程度の初歩的な公式が証明できなければ大学に上がってからの数学の勉強で苦しむことのは明らかなのに、多くの人が高校の段階でその証明を理解していなかったのです。
この記事を見ているあなたも似たような状況かもしれません。この問題は本来ならばサービス問題であり、裏を返せば解けなければ受からないはずの問題です。面倒くさい、時間がないといった理由でこうした公式の証明から目を背けるのはやめにして、一度「数学」そのものに対して真摯に向き合う必要があるでしょう。
この問題を解くために
必要な考え方
それでは気を取り直してこの問題の解き方を考えていきましょう。……とはいえ、これはすらすらできて欲しい問題です。それに加えて、この証明がすらすら出来る人は証明過程を丸覚えするといったことはしません。「要点だけ覚える」ことを意識すればド忘れを起こすことはないので、今回は証明の「要点だけ覚える」ことを学んでいただきたいと思います。これは数学の勉強はもちろん、入試そのものを攻略するうえでも大変重要になります。
(1)は三角関数の定義です。「一般角に対して」定義するので、有効範囲が0°から90°までしかない直角三角形の方法では答えになりません。このため、高校数学の範囲ではおおよそ下に画像を示すやり方しかないと思われます。
これで一般の角に対して定義をすることが可能になります。この他にはテイラー展開による定義や微分方程式による定義などがありますが、いずれも高校生には難しい内容です。
何はともあれ、これで(1)は解けました。ここからはこの(1)の結果をもとにして(2)を考えます。(1)で単位円による定義をしたので、(2)では単位円を証明に用いることになる、こう予想しておきましょう。まずは下に見える画像から考えてみます。
動径OP,OQが始線となす角がそれぞれα,βとなるように点P,Qを定めます。さて、ここからどうすればいいと思いますか?答えから言いますと、「PQの長さを2通りで表し、cos(β-α)についての式を作る」ことが必要になります。流石にこれを「思いつく」というのは無茶苦茶、というより天才の所業です。今回の証明の覚えるべき要点はここだけです。
というわけで、「ここにある情報だけでPQの長さを表す方法」を考えてみましょう。まず最初に、この図形がx-y平面上にあるから、PとQの座標はαとβを用いて表せて、そこからPQの長さを得られるのではないかということに気付くはずです。
実際にこれは、Pの座標が(cosα, sinα)で、Qの座標が(cosβ, sinβ)であることから、$$rm{PQ^2}=(cosα-cosβ)^2+(sinα-sinβ)^2$$と表せます。もう1つのやり方は∠POQに注目して、ここから三角形POQの辺PQの長さを余弦定理で出すというものです。実際、$$rm{PQ^2}=2-2cos(β-α)$$となります。それではこれをもとに解答を書いてみましょう。
(2)の解答
数学Ⅰの三角比の単元で三角関数の変換公式を習ったかと思います。今回の解答ではこれも証明しておくことにしました。とはいえ、sinについての加法定理の使用を禁じられた環境下では図形による証明しか手段がないですし、なにより教科書に書いてあるやり方なので本番では省略しても減点はされないかと思います。むしろ、ここでは「数学の理論を構築する」にはどうすればいいのか、という点に注目していただきたいと思います。
それと、最初にβ>αとして証明を始めましたが、β<αの場合は示さずともよいです。αとβには対称性があるためです。この答案では最後に「βとαは入れ替えてもよい」と書くことで対称性があることを説明しています。
要点だけを覚えるということ
ここまで加法定理の証明を見てきました。一部の人はこれを覚えずに毎回導出するようですが、ほとんどの人には無理があろうかと思われます。そのため、とりあえず加法定理は覚えることとしますが、加法定理を覚えることで、以下に示す公式は全て30秒以内に導出することができます。
まずは倍角の公式です。正弦・余弦・正接の全3パターンを以下のように出すことができます。
正接は正弦を余弦で割ったものとして出すことになります。これを利用して、次は半角の公式を出してみましょう。導出はおおよそ次のようなやり方で行います。
さらに、積和の公式と和積の公式も以下に示すような方法で導出できます。一部のみ示すので、残りも同じ要領で出してみてください。積和の公式は全部で3種類、和積の公式は4種類存在します。
以上のように、倍角・半角・積和・和積の公式は試験本番中でも簡単に導出ができるわけですから、これをわざわざ語呂合わせなどを使って覚えるのはやめましょう。目安として、1分以内に証明できる公式を覚える必要はありません。これらを覚えるのに使っていた時間と脳みその容量は英語や古典などのどうしても暗記量を減らせない教科に回してください。
公式を証明できなければならない理由
最後に公式の証明の必要性についての話をして終わりにします。まず最初に言っておくべきことは、教科書の公式を丸暗記しているうちは初見の問題を解くことができない、ということです。
数学や物理学では意外な分野同士が手を結んでいることが多いです。これらの繋がりを受験生が知っていることを前提とした出題がなされることもあります。一つ一つの公式を個別に丸暗記しているようでは、こうした繋がりを見抜くことができないのです。
また、パターン学習で運よく大学入試を突破できたとしても、その後の勉強で地獄を見ることになります。大学で習う数学はとにかく論理を重視します。高校の段階では論理の厳密性を議論することはほとんどありませんでしたが、大学ではそれらを一つ一つ検証することになるのです。
そうなれば公式の丸暗記ではもはやどうしようもありません。一夜漬けで単位を取ることは出来ても肝心の講義内容は右から左で、受けた後の長期休暇を過ぎれば何も残っていないことに気付くはずです。それでは大学に行く意味はないでしょう。少なくとも、大学は単位を取るために行くところではないのです。
だからこそ、高校の段階で公式の証明からしっかりとやっておく必要があります。証明を通して一から理解した内容は忘れにくく、一生の財産になります。入試も大学の数学も、ここで土台をしっかり固めておけば圧倒的に楽になるのです。
そして、このような基本を身につけるにあたり、とても頼りになる助っ人が存在します。東大家庭教師友の会に所属する学生家庭教師です。採用率20%以下の厳しい審査を通過した難関大所属の家庭教師は数学の効果的な勉強法を熟知しており、なおかつ生徒様の目線に立った献身的な指導ができます。
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