1. 「勇者たちの中学受験」の基本情報
・タイトル:「勇者たちの中学受験」
・作者名:おおたとしまさ
・出版社名:大和書房
・発行年:2022年11月20日
2. 「勇者たちの中学受験」のあらすじ
「勇者たちの中学受験」は、教育ジャーナリストのおおたとしまささんが執筆した中学受験のルポルタージュです。
3つの家庭の中学受験、経験談が紹介されています。
しかしただのノンフィクション本ではありません。
3人のエピソードは小説調で書かれているので、心情描写が大変リアルです。
非常に共感できますし、我が子と照らし合わせて読むと中学受験の過酷さに震え上がります。
また中学受験の負の部分に焦点を当てているのも、他の中学受験本との大きな違いです。
進学塾の合格体験記とは、真逆のエピソードが紹介されています。
ぜひ本章を参考に「勇者たちの中学受験」で、何が得られるのかを知って下さい。
①エピソード1:アユタ
SAPIXに通う息子を全力サポートするも、期待した結果が得られず、疲弊した父親が紹介されています。
この章のテーマは、「中学受験は親が9割は、本当か?」ということでしょう。
アユタの父親、水崎大希は非常に熱心な中学受験パパです。
たくさんの中学受験指南書を読み、関連するセミナーに通い、自分のメンタルコントロールも怠りません。
中学受験の親として出来ることは全てやり、ベストな状態でアユタをサポートしたと言えます。
それは大希が「中学受験は親が9割」という、言葉を信じていたからです。
自分の努力でアユタが難関校に合格できるなら、と中学受験に全力を注ぎました。
アユタの中学受験のスタートは早く、小2の2月に早稲アカに入塾、小4の冬季講習からSAPIXに転塾します。
アユタの志望校は、神奈川御三家の栄光です。
SAPIXは親の負担が多い塾ですが、大希は精力的にサポートし、アユタも真面目に勉強します。
しかし成績は思うように伸びず、小6の志望校決定時期に栄光を諦めます。
そしてそこから本番まで、大希は心の底に抱いていた期待を裏切られ続けるのです。
「これが親子で歩んできた四年間の結果か。何が悪かったというのか。自分もアユタも、やるべきことはやってきたはず。それが報われないなんてことがあってもいいのだろうか」
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アユタの結果は、著者からすると、決して悪くはありません。
しかし大希は受験が終わった後、あの努力に対してこの結果か、と思ってしまうのです。
大希は受験後、「合格体験記」を読み漁り、鵜呑みにしたことを後悔した、と語ります。
中学受験の世界に足を踏み入れた途端、中学受験ビジネスに踊らされてしまう親は少なくありません。
そういう自分を客観的に見るための、きっかけをもらえるようなエピソードです。
②エピソード2:ハヤト
エピソード2では、最上位層の子供が中学受験に潰され、家庭崩壊する様が描かれています。
ハヤトは早稲アカの特待生で、三冠に最も近い男と言わています。
三冠とは、男子最難関である
・灘
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の全てに合格することです。
また早稲アカの特待生は、授業料が半額もしくは免除されます。
この章では中学受験の闇と、中学受験で子供を潰さないために親はどうすべきかを知ることが可能です。
母親の風間悟妃はハヤトが塾のテストで上位を保てるよう、多くの勉強を課します。
また父親の由弦はハヤトに勉強させるだけでなく、ハヤトの成績が下がると暴れました。
ハヤトは勉強が大好きでしたが、父母各々から大量の勉強を課されたことで、自主的に勉強しなくなります。
大量の勉強をすることで、ハヤトは早稲アカで常に上位に居続けました。
しかし早稲アカの灘ツアーに参加し、灘に落ちた時から、ハヤトの中学受験の転落が始まります。
ハヤトのエピソードで描かれるのは、中学受験の闇です。
偏差値至上主義に走った中学受験が、子供にどのような不幸をもたらすのかを知れます。
また塾が合格実績のために最上位層をどう優遇するのか知れるのも、興味深いです。
早稲アカが灘の合格実績のために旅費、宿泊代を負担する灘ツアーはその象徴でしょう。
中学受験に足を踏み入れると、少なからず偏差値で人を評価してしまいます。
しかし偏差値も学歴も子供の幸せに直結しないことを、ハヤト家族から教わるでしょう。
中学受験で大人に傷つけられたハヤトが少しずつ再生していく様子は、涙なしには読めません。
③エピソード3:コズエ
エピソード3では、偏差値を重視しない中学受験をしたコズエが紹介されます。
中学受験の成功は偏差値の高い学校に受かることではない、と実感させられるエピソードです。
アユタやハヤトとコズエの違いは、大手塾に通っていないのと、難関校を目指してない点です。
コズエには姉がいて、姉の中学受験で反省が多い両親はかなり下調べをし、塾探しをしました。
知名度や合格実績とは関係ない塾選びで、コズエや両親はストレスの少ない受験期を過ごします。
それでも本番直前に中学受験を断念しかけます。なぜなら受験のストレスで、コズエが氷食症になったからです。
コズエの精神状況を省みて、両親はコズエの努力の範囲で入れる、偏差値を重視しない受験を決意します。
中学受験を始めると、目に付くのは偏差値の高い学校に受かった子供の合格体験記です。
我が子もそうなれるよう、合格実績が華やかな大手塾の扉を叩く親が多いのではないでしょうか。
コズエの中学受験は、多くの人が思い描く中学受験の成功体験ではありません。
しかし偏差値重視しない中学受験が、どういうものかを教えてくれます。
塾の冊子やネットにはない、子どもの挑戦に焦点を当てた中学受験エピソードです。
④解説
各登場人物のその後や、中学受験を不幸な経験にしないためのアドバイスが著者により語られます。
著者が「勇者たちの中学受験」で伝えたいのは、中学受験は結果でなく過程が大切ということです。
中学受験で最悪なのは合格0でなく、途中で子供や親が壊れることです。 それは第一志望でないとダメ、偏差値60以下の学校に価値はないという思想から生まれるとしています。
対して、中学受験で得られるものも多いにあると伝えています。
それは努力して挑戦する勇気、全力で支えてくれる存在(親)に気づけるということです。
エピソード2のハヤトは、世間一般で見れば輝かしい合格実績を得ます。
しかしハヤトは中学受験で潰れ、家庭崩壊もしました。 対してエピソード3のコズエの合格実績は、決して華々しくありません。
でもコズエやコズエの家族にとって、子供が成長できた幸せな経験になりました。
「勇者たちの中学受験」は結果だけを切り取るのではなく、裏側をきちんと描いているので、面白いです。
その他、塾や第一志望の選び方についても具体的に触れているので、解説も学びの多い内容になっています。
3. 「勇者たちの中学受験」の考察・書評
以前ご紹介した「二月の勝者」など、中学受験を描いたマンガや小説はいくつかありますが、塾を実名で登場させたノンフィクションとして、きれいごとしか描かない合格体験記ではなく、ここまでの内容を描いた書籍は類を見ません。
とりあげた3名の受験生についても、それぞれ特徴が出ており、著者のおおたさんが込めたかったメッセージが強く伝わってきます。
親として、また子ども自身がどのように中学受験を捉えるか、向かっていくかを考えていく上で大きなヒントとなる書籍だと言えるでしょう。
①この本とのおススメの向き合い方
この書籍では、3名の受験生の親の「受験歴」(自分自身がどのような受験経験を経てきたか、上の子がいるならそのときにどのような受験をしたか)も含めて紹介されており、非常にリアリティがあります。
私も数多くの生徒・親御さんと接してきましたが、やはり親の「受験歴」は受験に対する考え方に大きく影響します。
この本を読まれる皆さんも是非、ご自身の「受験歴」を振り返りながら、この本に登場する親御さんとの共通点・相違点を探し、それを踏まえて受験に対する考え方を見つめ直していただけると良いのではないかと思います。
②この本を読むときの注意点
この本に登場する3名の受験生はそれぞれドラマティックな経験をしますが、当然ながらすべての受験生が同じようなドラマティックな経験をするわけではありません。
私が指導していた生徒でも、全員大なり小なりトラブルやハプニングは起きましたが、それほど大きなことは起こらずに合格をつかみ取っていった生徒もいます。
ですので、この本を読んで過度に「中学受験って怖い」「危険なものだ」と考えることはありません。
おおたさんも解説で言うように「中学受験残酷物語」へとつながってしまうのは、やり方と心構えのせいであると私も思います。
実際、私が指導していた生徒でも、やり方・心構えに問題があるな…と感じるご家庭はありました。
私なりの考えを親御さんにお伝えしたりもしましたが、残念ながら結果的にあまりうなくいかなかったこともあります。
そのような事態に陥らないためにも、いたずらに恐れるのではなく、ご自身のあり方を振り返る鏡としてこの本を読んでいただくことをお勧めします。
そして、この本は受験に対する万能の処方箋でもありません。
それぞれご家庭は千差万別であり、それぞれに合った受験のあり方を探すしかないのです。
そのための羅針盤の一つとしてご活用いただくと良いのではないかと思います。
最後に
本記事では「勇者たちの中学受験」のあらすじと、どう参考になるかを紹介しました。
「勇者たちの中学受験」では、中学受験の闇が紹介されています。
不幸な中学受験にならないための、戒めになる本です。
他の中学受験本では描かれない中学受験を知れますので、ぜひ読んでみて下さい。
▼当会では、中学受験生への指導に特化した家庭教師をご紹介しています。ぜひ併せてご覧ください。
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